インタビュー

映画『ペンギン・ハイウェイ』
監督 石田祐康さんインタビュー

今月は映画『ペンギン・ハイウェイ』の監督、石田祐康さんにインタビュー! 研究熱心な少年・アオヤマ君を通じて、果てしない世界の謎と冒険が描かれる本作。初の劇場長編アニメに挑んだ石田監督に、創作秘話と作品作りのこだわりについて聞きました!

2019年8月19日(月)

石田祐康
いしだ・ひろやす/アニメーション監督。京都精華大学在学中に発表した自主制作作品『フミコの告白』が、ユニークでスピード感溢れる映像で話題に。主な監督作品に劇場デビュー作『陽なたのアオシグレ』、ショートアニメ『FASTENING DAYS』など。

「年上のお姉さんの
美しさにこだわりました」

 

−−本作で、初の劇場長編アニメに挑むことになったいきさつを教えてください。

 

石田 数年前から「会社として長編も視野に入れて……」という話がCMや短編を制作する最中に会話の中でちょくちょく挟まれるようになり、『台風のノルダ』(2015年)の制作が終わったときに、一気にいろんな原作を読み込んだり、企画を進めたりをどんどんやり始めました。

 

−−『陽なたのアオシグレ』(2013年)では様々な鳥が登場して印象的でした。原作を検討する中で本作に決まったのは、ペンギンがたくさん出てくることも影響しているんですか。

 

石田 実は、ペンギンは最初そこまでかわいいと思ってなくて、そこまでの関心を持っていませんでした。原作を読み込んでいくうちに、原作者の森見登美彦先生のペンギンの書き方が妙にかわいらしく、絵も描くうちにだんだんかわいいなと思うようになってきたんです。当然、物語やキャラクターたちに愛着があったので、映画にしたいと思ったんですけれど、それと同時に、ペンギンが描きたくなったというのもあります。自分は鳥と縁があるのかなあ、と(笑)。

 

−−原作のどこに惹かれましたか。

 

石田 アオヤマ君が見ている世界の、美しさや楽しさ。年上お姉さんへの憧れ。知ることの喜び。この3つの柱の全てに共感を覚えざるを得ないんです。どれも等しく好きですけど、あえて言えばお姉さんですね。監督として原画やキャラクターの芝居のチェックをし、必要であれば絵を入れていきますが、なかでもお姉さんの美しさという点にはかなりこだわりがあって、表情をはじめ細かなところに直しを入れていきました。こういう美しいお姉さんが欲しいんだ! ということを、伝えるための作業をしていた感じですね。

スタッフそれぞれに、好きなキャラクターがいると思うんですが、自分はダントツお姉さんです。当初から「この作品、俺得だ!」と言っていて、描きながら楽しかったです。第二弾キービジュアルを描かせてもらったときにちょっと悩んだんですよね。キャラクター愛が強く出すぎると、お姉さんを色っぽく描きすぎて、一般に向けた映画として場違いになってしまう。結果は抑えることになりました。絵描きとしては悩ましいところでした。

 

−−作中で、お姉さんが色っぽく描けたなあというシーンはどこですか。

 

石田 演出の亀井幹太さんにお願いした、お姉さんの部屋にアオヤマ君が上がったときのパートです。絵コンテは基本的に自分が描いているのですが、その意図をすごく丁寧に汲み取っていただいています。説明していないのに、「このシーンは作中でも相当大事だろう」と判断されたのか、相当に上手い、お知り合いのベテランアニメーターさんに仕事を振ってくれていて、さらに亀井さんの気の利いた演出チェック。キャラクターデザインの新井陽次郎君、作画監督のいつも以上に丁寧な絵で、「どのパートよりもここのお姉さん、いいなあ~」ってなりました。

 

アオヤマ君が断食をして、体調を崩したときにお姉さんがお見舞いに来たシーン。いずれのお姉さん登場シーンも、石田監督入魂のチェックが入っている!

 

−−至上のお姉さんが描かれていたというわけですね(笑)。では、アオヤマ君をはじめ、お姉さん以外のキャラクター作りは、どのように進めていましたか。

 

石田 企画を進めていた当初の、原作を読んでイメージボード(作品の全体的なイメージを落とし込んだ絵)を何点か描いていた頃のアオヤマ君は、『陽なたのアオシグレ』といった自分がそれまでに描いていた作品の、柔らかい感じの少年像に引きずられていたところがあったんです。でも森見先生の出した僅かなヒントを頼りに、ちょっとずつ賢い少年像ができてきて。途中では、新井君の描いたアオヤマ君が、妙に森見先生ご本人に似ちゃったりとかしていました。

 

−−それはそれで、見てみたかった気もします(笑)。

 

石田 さらにそこから、キャラクターを詰めていきました。新井君が描いたキャラクター表を自分がチェックして、「こういう特徴があるから、ここをこうして欲しい」、「本作のこういう構成にこの設定が効いてくるから」という意見交換を何往復かして、アオヤマ君はこのキャラクターで行きましょう、と決めていきました。それは全キャラクター、そういうふうにやり取りを密にしてやっていますね。

 

−−物語冒頭で、双眼鏡で空き地にいるペンギンを見つけたアオヤマ君が、車道を突っ切ってペンギンを確認しに行くシーンは、原作にはないシーンでした。このシーンにはどんな意図があったのでしょうか。

 

石田 アオヤマ君は目がセンサーみたいな子なんで、最初は視野が広く、いろんなものを感度よく捉えようとするんですけど、一個何かロックオンしたときにはピッとセンサーのレンジ(範囲)を絞って、一点突破で行くイメージだったんです。だから、そのシーンは双眼鏡から目線を外さずに、音だけ聞いて車が来ているのはわかっているけど、とりあえず手を挙げて「車と自分がこの距離感だったら渡れる」と正確に判断してペンギンのところへ行っちゃう、「それよりもあれが気になる!」という姿を描きました。

 

アオヤマ君とペンギンが初めて出会ったシーン。100点ほどあるというイメージボードの中で、石田監督は最初にこの印象的なシーンを描いた。

 

−−賢い感じもさることながら、一つのことに夢中になる、風変わりな少年の印象がワンシーンで伝わりました。

 

石田 ともすると、PTAから怒られないかななんて心配していました(苦笑)。

 

「ペンギンパレードは
見どころのひとつ!」

 

−−うまくいったな、というシーンはどこですか。

 

石田 OPですね。映画にとってのOPは好きなので、この作品にあったOPができたなという感触があります。

どういう街なのか、どんな人が暮らしているのかがわかり、物語へとスッと入っていけるOPでした。

 

石田 森見先生がモデルにした街をはじめ、他にもロケハンしたニュータウンの風景を反映しています。ペンギンが歩いているだけという、割とシュールな絵面が続きますが、この作品はそんな派手にするでもなく、なんでもない感じのOPがいいなと。

ロケハンは、森見先生がモデルとした街を教えていただき、実際に訪れました。きれいに正方形に並んだ街並みや、坂になっている道を見たり、街を歩いて「ここが海辺のカフェや、お姉さんが勤めていた歯科医院なのかな」と想像してみたりしていました。なかでもケモノ道(ウチダ君とペンギン・ハイウェイを発見するところ)と市営グラウンドは、実際の映像にもかなり反映されています。

 

−−どうしてもカットしたくない! と、こだわったシーンはありますか。

 

石田 後半に、アオヤマ君の妹が怖い夢を見て目が覚めて、彼の部屋に入ってきて、泣いちゃうシーンがあるんですが、そこは省く候補だったんです。なんとか残したくて。本編の、アオヤマ君とお姉さんのストーリーには直接関係はしないんですが、このシーンで話していることの根底のテーマは本編のテーマと通じているところもあって。妹がかわいそうでいじらしくもあり残したいな、この感じを伝えたいなというが気持ちがありました。他では、アオヤマ君と彼のお父さんが喫茶店で世界の果てについて問答をするシーンがあるんですが、そこもカット候補でした。物語的にも一応つながってはいるんですが、人によっては「訳がわからないので、省いたほうがいい」という人もいると思うんですよね。それをわかっていたうえで残したかった。脚本の上田誠さんの追加要素も面白かったですし。

 

−−森見先生らしい、SF的な要素が感じられる一幕でもありますしね! 逆に、原作とは異なるシーンはありますか。

 

石田 アオヤマ君の感情を強調するため、原作以上に熱いセリフやシーンを入れています。例えば「ペンギンパレード」と呼んでいる、ペンギンたちがわんさか出てきて走り回るシーンの前のアオヤマ君とお姉さんの会話は、原作にはほとんどなかったものです。なぜ必要だったかというと、これから謎を突き止めるためにとある場所へ行かなければいけないシーンなんですが、その目的を明確にするためと、アオヤマ君に「止めても行きます」といった覚悟を示すセリフを言わせたくて。前半よりも後半のほうが、そうした行動原理を明確にするために、原作とはアオヤマ君の見え方が少し違っていると思います。

 

−−「ペンギンパレード」のシーンは石田監督らしいアクションで、見ていて気持ちが良かったです!

 

石田 自分がこの作品をやる意味を考えながらトップクラスに描きたかったシーンのひとつでもあります。日常会話ベースの作品ですから、少しくらいは動的な部分は欲しくて。ぜひ見どころとして味わってほしいです。奇遇なのは、『フミコの告白』のときに手伝ってくれていた川野達郎君が、この「ペンギンパレード」のシーンをメインで担当していることです。その意味では、観る方によっては「過去の作品の集大成となるシーン」と受け取る方もいるかもしれないですね。

 

−−表現として新たに取り組んだことはありますか。

 

石田 森の奥にある草原に浮かんだ、透明の大きな球体の“海”は、作画ではなく、CGI監督の石井規仁さんのお力をお借りして、今までにない表現に挑戦しました。“海”は作中でも未知の存在として扱われているので、それだったら慣れ親しんだ作画ではなく、自分たちにとっても未知のCGで描こうとしたんです。“海”の水がはじける様子や、夕焼けに映える“海”など、美しい仕上がりになりました。

 

CGで描かれた、透明の大きな球体の“海”(写真左)。どんな表現になったかは、ぜひ劇場で確かめてみて!

 

−−映画館でもう一度見ます! 最後に、本作で達成できたこと、課題として残ったことを教えてください。

 

石田 長編アニメが1本できた! ですね(笑)。短編はアイディア次第で、一点突破でやれてしまうところがある。それが案の定、長編ではできなかったですね。勢いで作ることをしてはいけない作品と感じられましたし、自分もこの作品は丁寧にやりたかった。ひとつひとつ、いろんな人の意見に耳を傾け、出てくる問題をクリアしていき、コツコツと作りました。 次に長編をやるなら、はじけられる作品をやりたいです。わかりやすいところでいうと、アクション的に遊べる作品だったりとか。バトルものじゃないですけど戦ってもいいくらいかもしれない。

 

−−本作は今までの作品以上に、日常会話や芝居を描くことが求められましたが、いかがでしたか。

 

石田 かなり楽しんで描けました。経験や知恵が足らないなりに、うまくやれたかなという部分と、さらなる課題として日常会話シーンのつなぎ方ですね。何気ないシーンを見せていくときのつなぎが、スムーズに見やすく、もっと笑えて可笑しみのある感じにできるなという感触がありました。今回いろいろと挑戦したんですが、笑いの要素にもっと高みがありそうな気がして、その点まだ先の展望があるなと(笑)。もし、はっちゃけられるような作品ができるなら、ユーモアや笑いはもっと考えてみたいですね。そういう面白い作品を作ってみたいんです。

 

映画『ペンギン・ハイウェイ』
2018年8月17日(金)より、全国ロードショー!
配給:東宝映像事業部

 

詳しい情報は公式HPをチェック!

 

【あらすじ】
何事にも研究熱心な小学4年生の少年・アオヤマ君(画像中央左)。ある日、彼の住む郊外の街に、突如ペンギンたちが現れた。このおかしな事件に、通っている歯科医院の“お姉さん”(画像中央右)の不思議な力が関わっていると知った彼は、その謎を研究することにした。それは、少し不思議で、一生忘れない大冒険へと彼を導いていく。