インタビュー

『瞬きより迅く!!』
漫画家 ふなつかずき先生

2020年4月号より連載がスタートした『瞬きよりも迅く!!』。
最新コミックス第1巻の発売を記念して、作者のふなつかずき先生にインタビュー!
美麗な筆致でエロコメディを描いてきたふなつ先生が女子高生×伝統派空手道という新境地に挑もうと思ったきっかけなどについて聞きました!

2020年8月6日(木)

コミックス第1巻好評発売中‼︎

ふなつかずき 漫画家。大阪府東大阪出身。1998年『漆黒のレムネア』でデビュー。代表作に『華麗なる食卓』、『妖怪少女〜モンスガ〜』、『すんどめ!!ミルキーウェイ』がある。今作のほか「グランドジャンプむちゃ」にて『すんどめ!!ミルキーウェイ ANOTHER END』を連載中。

ふなつかずき先生オフィシャルサイト http://funatsukazuki.com/

Twitterアカウント @funatsukazuki

 

 

熱く可愛くカッコよくをモットーに

空手道を描きます!

 

実際に空手を習っている人も読める青春物にしたかった

 

――「グランドジャンプむちゃ」で連載中の『すんどめ!! ミルキーウェイANOTHER END』をはじめ、サービスシーン満載の作風で知られるふなつ先生。なぜ、伝統派空手をテーマにした青春スポーツ漫画を描こうと思ったのでしょうか。

 

ふなつ 単純に描いてみたかったんです。伝統派空手の漫画は少ないですし、(空手が初めて競技種目として採用される)オリンピックも近いのに、僕の周りで組手のルールさえ知っている人がいなかった。ちょっと悔しかったのかな? 自分自身、ほんの7年程度ですが伝統派空手を学んでいる端くれとして、その認知度の低さが。自分が広めてやる! なんて大それたことは言えないですが、せめてオリンピック前にこれ読んだらルールくらいはわかるよー、みたいな。

 

あと、僕の漫画って、ずっと読んでくださっているコアなファンの方ならご存知だと思うのですが、どの作品にも必ずと言っていいほど空手少女が出てくるんです。強くて可愛い女の子が好きなんでしょうね(笑) だから、いつかそれをメインに描きたいな、というのはずっとありました。

 

――掲載までの経緯について伺わせてください。

 

ふなつ 僕、実は20年前、ヤングジャンプへ持ち込みに行った時、ウルトラジャンプに行きたかったんです。大暮維人先生とか、麻宮騎亜先生、松本嵩春先生とか好きな作家さんが多かったので。でもその当時、ウルトラジャンプはまだヤングジャンプ超増刊だったので、ヤングジャンプに持ち込みに行ったんです。それがそのままヤングジャンプで連載デビュー作の『華麗なる食卓』を連載することになって……。まさか20年以上経って、ウルトラジャンプで連載するとは思っていませんでした(笑)。

 

『すんどめ!! ミルキーウェイANOTHER END』に関しては、グランドジャンプ編集部には「本誌でそのまま継続して……」と言っていただいていたのですが、どうしても『まばはや(瞬きより迅く!!)』のコミックス1巻をオリンピック前に出したい、というのがありまして、かと言ってグランドジャンプ本誌での連載とウルトラジャンプの同時連載は物量的に無理だったので、「グランドジャンプむちゃ」での移籍新連載という形にしてもらったんです。……が、まさかこんな事態になるとは…(汗)。

 

――実際に伝統派空手を学んでいるとのことですが、どのような形で伝統派空手と出会ったのですか。

 

ふなつ 出会いは長女ですね。長女が小学校3年生の時に習いたい、と言いだして……。それに付き添いでついていったら、僕もやりたくなってしまって一緒に習い始めました。今はもう僕だけですが、一時は家族全員で空手を習っていた時期もあったんですよ(笑)。

 

日葵は、真心、そして空手に出会うことで徐々に成長。「好きなことを一生懸命やる姿の美しさを描きたい」(ふなつ先生)

 

 

――伝統派空手のどんなところに魅かれたのでしょうか。

 

ふなつ 一番グッときたのは……これはネタばれになるかもなのでやめておきます(笑)。あとは技のカッコよさですよ。最近はルールの変更もあって蹴り技がすごく増えたんですね。やっぱり蹴り技は派手だしカッコいいですよね。

 

どんなスポーツ物でもそうですが、みんなめっちゃ頑張ってるじゃないですか? どんなに辛くても挫けてもケガしても、好きなことを目一杯一生懸命やっている。そういう姿ってやっぱり勝っても負けても美しくないですか? そういうのを描いてみたいなって。それも込みで、先ほどの……一番グッとくる瞬間、いつか(主人公・小花井)日葵がそれに気づく日が来るんだろうなって、それが楽しみでなりません。

 

――物語づくりで意識されているのはどんなことですか。

 

ふなつ 今作ではエロは封印していくつもりです(そのうち夏合宿の水着回、お風呂回くらいはやると思いますが)。 女性アスリートを描くにあたり、エロをやってしまったら間違いなく色物作品にしかならないと思ったんです。どうせ描くなら実際に空手を習っている人、やっていた人もちゃんと読めるものにしたいなって。

 

ほんの一部のトップ選手を除く多くの人がそれをどんなに夢中にやったって将来それで食えるわけじゃない、お金でも、地位でも名誉でもない。そんなことを夢中で、一生懸命やって、かけがえのない仲間と出会い、時にケンカしたり一緒に泣いたり笑ったりして成長していく、そういうのって、なんていうかホント素敵じゃないですか。空手に限らず、ありとあらゆるスポーツで何百回と描かれてきたジャンルかも知れませんが、そんな青春物を描いてみたかった。熱く可愛くカッコよくをモットーに、そんな物語にできたらなぁ、と思っています。

 

男性から投げつけられた空き缶を真心が蹴り返すシーン。真心が中を舞うような構図で迫力のある見開き。もちろん、パンツは見えない(笑)

 

 

――パンツが見えちゃいそうなシーンでもあえて描いていないのは、そんな思いがあったからなんですね! 日葵をはじめとするキャラクター達には、先生のどんな思いが込められているのですか。

 

ふなつ 日葵は実は最初の設定ではすごい強い子だったんです。子供の頃から空手をやっていて、強いんだけどある理由から空手から離れていた子。今の日葵よりもうちょっとわがままで性格悪かったかな? おこちゃまっぽくて。それで2話分ネームを描いていたんですが、3話目で描けなくなっちゃったんですよね。なんか、話が膨らまなくなったというか。

 

で、それならまったくできない子をいちから育てていった方がいいのかも、と。できる子がより強くなってくのもいいですが、できない子が少しずつでもできるようになっていくのもそれはそれで楽しいし、前述したように、伝統派空手を知らない漫画読者が多いならなおさらかな?と。となれば、やっぱり空手から遠い性格の子の方がいい。そこから、ドジで鈍くて内気でコミュ障な「ぐ~どん」が生まれました。

 

天吹真心は、日葵があの性格なので、真逆な性格の子にしたいな、と。まぁそうじゃないと話が進まないってのもあったんですが、 実は最初は真心もすんごいいい子だったんです。そう言うと今の真心が悪い子みたいですが(笑)、すごい素直で優しい子。だけど、それだとただいい話なだけで、なにも引っかかりがなかった。なら、例え騙してでも日葵をグイグイ引っ張ってってくれるようなキャラクターにしようって。で、その真心の理解者であり、ライバル、そしてまとめ役として(由良)珠希。普段はポーッとしてるけどいざとなったら真心を上から押さえつけられる、顧問の浅木先生。まぁオーソドックスなキャラクター配置ですが、この配置ってやっぱり描きやすいですね。

 

そして(天吹)優心は、日葵とはまた違った意味での真心の真逆ですが、優心は実は最初いなかったんです。前述したように、日葵は真心に憧れて真心のいる空手道部に入るってだけだったんですね。で、その真心は2つに分かれたんです。まるで(『DRAGON BALL』の)神様とピッコロのように(笑)。となったら、優心は真心と日葵に対立する立場の方が面白いんじゃないかって。現状、優心は出番も少なくて謎の多いキャラクターですが、今後少しづつ出していくのが楽しみです。

 

 

エロを封印したのが最大のチャレンジです!

 

――日葵をはじめ、可愛い女の子を描くときに特に気を付けていることは?

 

ふなつ 基本的には骨格ですかね? 華奢に描くようにしています。肉感と骨感の差をしっかり描く、というか。今作は残念ながら(?)裸を描く機会がほぼないので、あまりそのへんはお見せできないかもですが、そのぶん道着のダボっと感を強調して女の子っぽさを出したいなぁ、と。

 

――空手の技や形の見せ方がカッコいいです。取材などもされたのでしょうか。

 

ふなつ 高校の空手道部などの取材はしていますね。基本的な稽古自体は僕自身も知っていますが、高校の部活動での練習はまた違って、学校によってもやっぱり違うんですよね。とにかく基本っていうところとか、基本は各自でやらせて部活では組手のみ、とかその両方とか。すごく勉強になります。

 

技や形は実際に自分がやってみたり(もちろんその通りにできるものでもないですが…)、教本片手に描いています。

構図に関しては、迫力とわかりやすさ重視で頭の中で3D化してぐるぐる回してる感じです。

 

こだわりと言うとちょっと違うかも知れませんが、形に関しては描くのは本当に気を使うし大変です。なぜなら「正解がある」から。足幅やつま先の向き、手が開いてるか握ってるか、から角度に至るまで、そのすべてに正解があるので、基本的に間違えられない。かと言って全部正しく描いていいのかっていうとそうでもないのかも知れませんが、基本的に形は間違えないことが第一前提、となるとやっぱり気をつかいますね。

 

 

真心が空手の形「燕飛」を練習するシーン。空手を学んでいたからこそ、形の動作には細心の注意を払っているという

 

 

――今作を描いていて楽しくなる瞬間はどんな時ですか。

 

ふなつ 楽しいのはやっぱり技が決まる瞬間の見せゴマ(見開き)とかですね。画面の大きさが変えられる、というのは漫画でしかできないことなので、見開きとかはやっぱり楽しいし、気合い入りますね。あと、なんでもないキャラクター同士のやりとりは楽しいです。日葵のドジなシーンとかも(笑)。

 

逆に難しいのは、形のシーンですね。あれ、めちゃくちゃ時間かかるんですよ。緩急をどう見せようか、とか、(形の動きの)どこをはしょろうか、とか。見開き単位でデザインしていく感じで、しんどいですが、その分やり甲斐は感じています。

 

――お気に入りのシーンはありますか。

 

ふなつ 最大のお気に入りは日葵と(伊澤)空との組手、最後の一手です(詳しくは1巻の4話で!)。細かいところで言うと、1話の電車のドア。あと、日葵と(月見里)美裕の約束組手のシーンです。約束組手は相手に攻撃する場所を伝え、受け手はそれを捌くのですが、初心者の日葵と美裕は相手のことを気遣って伝えた場所を攻撃できず、約束組手として成立していない(笑)。空手を習っていると、道場でこんな風になってるちびっこがホント多いんです。それから、前屈立ちで後ろ足の膝裏踏んづける真心、あたりもですね。

 

ふなつ先生ならではの、コミカルで可愛い表現も今作の魅力!

 

――今作でふなつ先生ご自身がチャレンジしたことがあれば教えてください。

 

ふなつ やっぱりエロを封印したことじゃないですか?(笑) エロは僕にとっていわゆる必殺技なので、それを自ら封じたのは最大のチャレンジだと思ってます。自分で言うのもなんですが(笑)。

 

正直、連載開始前は今までなかったくらい怖かったです。エロないなら読まない、とか、エロのないお前に価値あると思ってんの?くらいのことは言われる覚悟で始めたものなので。でも、とにかく後悔だけはしないよう全力で頑張りたいとは思ってます。

 

――必殺技が使えないだけに、連載ネーム制作時は、「生みの苦しみ」的なこともあったのでしょうか。

 

ふなつ 実はこの『まばはや』のネーム第一稿って3年前に描いたものだったんです。4年前に空手道漫画描きたいってなって、当時別の雑誌の担当さんと読み切りを描こうと取材したりして……。でも描けなくて、それから1年後に『まばはや』のネームの第一稿ができて……。でも結局それは載らず、そのままさらに1年経って、やっぱりこれ描きたい! ってその続きを描いて……。

 

ウルトラジャンプで連載が決まってから再度取材したり、ネームを全部ボツにしていちから描き直したりとか、今作は今までで一番苦労しましたね。ネームつくるのも連載取るのも。ホントしんどかった(笑)。

 

――読者からの反応で、嬉しかったことはどんなことでしょうか。

 

ふなつ どれもTwitterですけど「経験者からしても描写がリアルで驚いた」、「空手道部あるあるがリアル」といった経験者の方の反応や、過去に空手をやっていた人の「読んでいるとまた稽古したくなってきた」という反応を見た時はホント嬉しかったですね。「暑苦しくなくて読みやすい」とか、「今まで読んだ空手漫画で一番丁寧」とかも。あと、「パンツないのにすごく面白くなってきた」も嬉しかったです。すべてのありがたいお言葉は、嬉しい反面ヘタなものは描けないぞ! という糧になっています。

 

――『瞬きより迅く!!』の、今後の展開について教えてください。

 

ふなつ 今後は……そうですね。やっぱり大会に出て、新たなライバル達との出会いがあったり、空手道のホントの楽しさに気づいたり……。仲間達が空手道をやっている理由やその苦悩、そして憧れの人、優心との対立とその真意、などなど。泣いたり笑ったりしながら少しづつ、だけど着実に日葵はきっと強くなっていってくれると信じていますので、どうかどうか温かい目で見守っていてくだされば!! 水着回!? やるよ(笑)。

 

 

 

ここからはアフタートークとして、クリエイターとしてのふなつ先生への質問を一問一答形式でお届けします!

Q.漫画家になろうと思ったきっかけは?

 

A.週刊少年ジャンプです。小5かな? 子供の頃から絵を描くのが好きで、絵ばっか描いてたんですよ。それでジャンプ読んで漫画っておもしれー!みたいな。

 

Q.デビューのきっかけは?

 

A.デビューは1998年、ヤングジャンプの月例賞で準入選をいただいたものがそのまま増刊に載ったやつですね。

 

Q.影響を受けた作品は何ですか?

 

A.え?いっぱいありすぎて書き切れないですよ?  『デビルマン』、『キン肉マン』、『北斗の拳』、『聖闘士星矢』、『タッチ』、『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』、『天上天下』、『寄生獣』……こんなもんにしときます。

 

Q.ネームはどこで、どのように作業されますか? 行き詰まった時は?

 

A.最近は仕事場でスタッフもいる中で描いてますね。行きづまった時はサボります(笑) 子供と遊んだり動物愛でたりバイクで逃走したり……(笑)。

 

Q.今後こんな漫画を描いてみたいという目標、野望はありますか?

 

A.エロがメインじゃないラブコメ、ホラー、レスキュー漫画。

 

Q.最近はまっているコト/モノがあったら教えてください。

 

A.バイク、「あつまれ どうぶつの森」 、「FINAL FANTASY VII REMAKE」。

 

Q.最後に、読者に向けメッセージをお願いします!

 

A.皆様どうか『瞬きより迅く!!』よろしくお願いいたします!!